上出由紀展
2006.10.16(mon)-10.21(sat)
ギャラリーなつか
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「交差点」/上出由紀 会場風景/上出由紀
「交差点」 (a crossing)  
41.0×27.3 (cm)
アイロンプリント 油彩 カンヴァス
会場風景

10月に入ると、早くも来年のダイアリーやカレンダーを見かけるようになる。まだ今年はあと4分の1も残っているのに…と目を背けたくなる人もいるだろうが、売り場は意外と賑わっている。来年という365日が来ることを人々はほとんど疑わず、今は不確定なその未来を自由に遊ぶことができる。新しい手帳を選んでいる人々は、誰もが 何かしらの感情を抱いているように見える。

 イスラエル。三大宗教の聖地、そして中東戦争の中心。何が起こるかわからない危険な国、その印象もあながち間違いとは言えないこの地でも、人はごく普通に生活をしている。もしかしたら、不穏なニュースが流れても差し迫った危機感のない日本の旅行者には理解できない、少し違った意識で日々を過ごしているかもしれない。壁に残る銃弾の跡や民族で分けられた居住区など、目に見えてこの国の複雑さを物語るものもある。それでも明日という日の存在を否定するほどの緊張感が常にあるわけではない。仕事や誰かとの約束、他愛無い友人との会話…人々を支えているのはどこにいてもそういった繰り返される日々の出来事で、爆弾への恐怖感だけではあり得ない。

 日本または世界のどこか。毎日見ている風景を、例えば自分の家のある通りの風景を、記憶を頼りにありのままに描ける人はおそらくほとんどいないだろう。それはあまりに当たり前で、細部まで鮮明である必要のない景色だからだ。ちょっとした変化、あるいはちょっとした違和感に気づく時、例えば咲き始めた花や気にとめたこともない空地にふと気づく時に、いつもの場所が少しだけ異質なものに変わることがある。日常の姿を垣間見る瞬間がそこにはあるのかもしれないが、それすらも人々の記憶に留まることはほとんどない。それが何かの予兆であったとしても、明日もそこにそれがあるだろうというあまり根拠のない確信は、記憶の引き出しを開けさせない。
 日常を信じる力は、人々が意識しないほどに、とても強い。

 新しい手帳を手にした時、あるべき日々を手にしたような錯覚があるのかもしれない。それはどことなくドラマチックな毎日を想像させる。しかし、その手帳に書き込まれない何か、そこに表れてこない景色こそ、それぞれの人が持っている自分だけの風景なのかもしれない。そしてそれは「記憶」という名前を与えられることのないまま、人々に深く刻まれていくものなのではないだろうか。



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2006 schedule



1991 武蔵野美術大学油絵科卒業
1993 武蔵野美術大学大学院造形研究科油画コース修了
(修了制作 優秀賞受賞)
1997 ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ
Certificate for Postgraduate Study in Fine Art 取得
ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ
Master of Art 研究生(秋学期のみ)

【活動歴】
1994 上野の森美術館大賞展 入選
個展(フタバ画廊/銀座)
1995 上野の森美術館大賞展 入選
個展(フタバ画廊)
1997 Degree Show (ゴールドスミスカレッジ/ロンドン)
1998 個展(フタバ画廊)
2000 個展(ギャラリーなつか/銀座)
2001 個展(ギャラリーなつか)
2002 個展(ギャラリーなつか)
2003 小品展(ギャラリーなつかb.p)
個展(ギャラリーなつか)
2004 百年の賞楽〜赤〜(exhibit LIVE/銀座)
個展(ギャラリーなつか)
2005 百年の賞楽〜存〜(exhibit LIVE)
回復展(ギャラリーなつか&b.p)
個展(画廊 編/大阪)
Fantastic(exhibit LIVE)
個展(ギャラリーなつか)
Fixation(SAN-AI GALLERY)
2006 背景をさぐる Vol.1(ギャラリーなつか)
シェル美術大賞展 入選
個展(ギャラリーなつか)
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