上野慶一 略歴
2011 展覧会記録へ戻る
face/surface/interface Vol.3 ヴァニタスの果実
『ヴァニタスの果実』

口上

「見ろ、あの月を。不思議な月だな。どう見ても、墓から抜け出して来た女のようだ。まるで死んだ女そっくり。どう見ても、屍をあさり歩く女のようだ」(註)
月下の狂気。さて、銀色の月ならぬ銀の盆に鎮座ましますのはヘロディアの娘サロメの所望したる洗礼者ヨカナーンの頭蓋。それはまるでずしりと重たく熟れ切った果実のよう。暫しの恍惚の接吻、血と唾液は混じりあって唇から糸を引く。手の甲で唇を拭うと、娘は果実を更に真半分に割ろうと彼女の白く細い象牙細工のように華奢な指で長身のナイフの柄を握りしめ、鋭く研ぎ上げたその刃をすべらかに入れ降ろす。これはいわば屍姦、挿入される彼女の偽の陰茎としてのナイフの刃。その切り口からたちまち溢れ出す粘液質の液体、それは甘くとろける生命の蜜たる精液なのか、それとも鉄の匂いを微かに放つ血混じりの死の髄液なのか。縦割り、あるいは横割りされた奇妙な果実の切断面を描いたドローイングを大小10点程出品。近年モノクロームの作品の多い上野だが、今回は20年振りに色彩を使った作品の展示となる。

註「サロメ」オスカー・ワイルド より
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